物質を構成する陽子や電子などの各素粒子は素粒子の回転によって生じた力(スピン)によって磁気モーメントを持ちますが、多くの物質は通常状態において各素粒子の磁気モーメントが揃わず、磁界を持つことはありません。しかし、磁性体と呼ばれる物質は外界からの磁界の影響(漏れ磁界)や電流により磁気モーメントが揃い、磁界を長期間発生させることができます。 磁界はN極とS極を持ち、磁界の強さは同一方向を向いたスピンの量に依存します。時間が経つにつれ磁気モーメントの向きが徐々に揃わなくなって磁界は弱くなります。
図 6 磁気ヘッド (内部) | 図 7 磁気ヘッド(構成部品) |
図 8磁気ディスク上の磁気ヘッド |
磁気ディスクを局所的に任意の向きに磁界を与えたり、その磁界の向きを検出するのに磁気ヘッドと呼ばれる記録再生ヘッド素子を用います(図6〜図8参照) かつて主流であった電磁誘導(インダクティブ)型磁気ヘッドの記録原理は、図9のように僅かに空隙(ギャップ)を持つ電磁石(ヘッドコア)にコイル状に電線を巻き、コイルに電流を流すと、フレミングの左手の法則によりヘッドコアに磁界が発生します。この磁性体のギャップから漏れる磁界(漏れ磁界)によって磁気ディスク上の磁性体の一部を極小の永久磁石として磁化することで情報を記録します。
図 9 記録原理 |
また再生原理は永久磁石となった磁界を持つ磁気ディスク上の磁性体にヘッドコアが近づくと、永久磁石からの漏れ磁界がギャップに当たり、ヘッドコアが磁化されて磁界の強さが変化します、磁界の強さの変化によってコイルに電流が流れるのでその電流の向きを検出します。 最近までインダクティブ型の薄膜ヘッドを利用していましたが、高密度化につれて再生感度に限界が生じたため、再生用のヘッド素子として磁界の向きによって電気抵抗が変化する性質を利用したMR(Magnet-Resistance)再生ヘッドまたはGMR( Giant MR)再生ヘッドなどを用いた2素子構成の磁気ヘッドが主流です。GMRヘッドにより、微弱な磁界の検出が可能となりHDDの飛躍的な高密度化に貢献しています。また、現在の磁気ディスクの磁界向きは水平方向(面内磁気記録方式)ですが、最近の飛躍的な微細化によって熱揺らぎ現象とよばれる常温でも保磁力が不安定になる現象が顕在化し、この方式では限界が見えてきました。しかし最近になって、トンネル磁気抵抗(TMR)を用いる技術や垂直方向に磁界を与える技術(垂直磁気記録方式)などによって記録再生技術が盛んに研究され、HDDのさらなる高密度化が見込まれます。